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高松高等裁判所 昭和26年(う)700号 判決

控訴人 被告人 河村長太郎

弁護人 山田節三

検察官 田中泰仁関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を判示(一)の罪につき罰金五千円に

判示(二)の罪につき罰金弐千円に

判示(三)の罪につき罰金参万円に

判示(四)の罪につき罰金五千円に

判示(五)の罪につき罰金五千円に

判示(六)の罪につき罰金参千円に処する。

右各罰金を完納することができないときは金五百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人山田節三の控訴趣意は別紙記載の通りである。

しかし当裁判所が職権で原判決を検討するに原判決は被告人が昭和二十五年一月下旬頃から同年六月中旬頃迄の間製造場より移出した京花紙合計千七百三十六締に対する物品税四万千八百七十円を逋脱した事実を認定しこれを物品税法第十八条第一項第二号に該当する一罪として処断しているけれども、物品税は当該物品の製造者が毎月その製造場より移出した物品につきその数量及び価格を記載した申告書を翌月十日迄に政府に提出し毎月分を翌々月末日迄に納付すべきものであること物品税法第八条第十条の規定に照し明かであり、或月分の物品税を不正行為により逋脱した場合は一個の逋脱罪が成立し数ケ月に亘つて逋脱行為があつた場合においては各月の分毎に物品税逋脱罪が成立するものと解するを相当とする。従て本件の如く昭和二十五年一月から同年六月迄毎月製品を移出しその各物品税を逋脱した場合においては六個の逋脱罪が成立するものと解すべきであり、これを一罪として処断した原判決は法律の適用を誤つて居りその誤は判決に影響を及ぼすこと云う迄もないから、原判決はこの点において破棄を免れない。仍て控訴趣意に対する判断をしないで刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条但書の規定に従い当裁判所において次の通り自判することとする。

(罪となるべき事実)

被告人は肩書地に工場を設け製紙業を営んでいたものであるところ、

(一)昭和二十五年一月中株式会社仁野商店に対し京花紙百六十八締を税込価格四万二千円で販売してこれを製造場より移出し

(二)同年二月中今村啓助に対し京花紙五十四締を税込価格一万五千百二十円で販売してこれを製造場より移出し

(三)同年三月中株式会社仁野商店及び株式会社井原兼一商店に対し五回に亘り京花紙計千百十四締を税込価格合計三十万八百八十円で販売してこれを製造場より移出し

(四)同年四月中株式会社井原兼一商店に対し二回に亘り京花紙計百五十締を税込価格合計三万八千八百二十円で販売してこれを製造場より移出し

(五)同年五月中右会社に対し二回に亘り京花紙計百五十四締を税込価格合計四万四十円で販売してこれを製造場より移出し

(六)同年六月中今井啓助に対し京花紙九十六締を税込価格二万四千円で販売してこれを製造場より移出し

たのに拘らずいずれも故意にこれを帳簿に記載せず且つ夫々所定の申告もしたいで

右(一)に対する物品税三千八百十円

(二)に対する物品税千三百七十円

(三)に対する物品税二万七千三百五十円

(四)に対する物品税三千五百二十円

(五)に対する物品税三千六百四十円

(六)に対する物品税二千百八十円

を夫々不正な方法で逋脱したものである。

(証拠)

一、原審第一回公判調書中被告人の供述記載

二、被告人に対する収税官吏の質問顛末書

三、仁野精二、伏見正、毛利貞一に対する収税官吏の各質問顛末書

四、検察事務官作成に係る村上春夫の供述調書

五、押収に係る元帳(証第一号)、金銭出納帳(証第二号)、作業日報(証第三号)

(法令の適用)

昭和二十五年法律第二百八十六号物品税法の一部を改正する法律附則第二項第七項、同法律による改正前の物品税法第十八条第一項第二号(各罰金刑選択)第二十一条罰金等臨時措置法第二条刑法第十八条

刑事訴訟法第百八十一条

仍て主文の通り判決する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

弁護人山田節三の控訴趣意

原判決は刑の量定が著しく不当である。

一、被告人が原判決摘示のように昭和二十五年一月下旬から同年六月中旬頃までの間京花紙合計千七百三十六締の価格税込金四十六万八百六十円にて株式会社兼一商店外二名へ販売し当時右製造所より移出したのに備付帳簿に記載せず且所定の物品税の申告もしないでこれに対する物品税四万八百七十円を脱税したと云う事実は被告人が自白する所で原審は右事実に対して罰金十万円の判決を言渡したのであるが此の判決は情状の点を看過した不当な判決である。

二、被告人が本件犯罪を犯した事は前述の通り明白であるが被告人が本件犯罪を犯すに至つた事情に付ては誠に止むを得ない而かも同情に価するものがある。即ち被告人は昭和十八年から独立して相当盛大に製紙業を営んで居つた者であるが打ち続く不景気の為業務は不振に陥り昭和二十五年七月即ち本件違反と前後して遂に休業の止むなきに立ち至つたのである。当時の被告人の営業状態は誠に不振と混乱の極にあつたので何とかして営業を継続して行こうと八苦の最中であつたので誠に止むを得ずに犯されたものであることを知ることが出来るのである。

三、更に当時の物品税である同法に付ては其可否に付て両論がありこれを否とする者が多く正に悪法との定評があつた為め国民の間に遵法の観念が非常に稀薄であつたことである。

被告人も其例に洩れず而も其の上に経営難が加つて遂に本件違反を犯すようになつたものである。殊に今日此の物品税法は国民の批判の上に遂に廃止を見るに至つた点を考える時被告人の所為は正に法律違反ではあるが其処罰に当つては宜しく此等の情状を酌量すべきものが当然である。

四、殊に被告人は本件検挙以来検察庁や原審に於ても終始犯罪事実を自白して只管改悛を誓つている者であり而も脱税額は僅かに四万余円に過ぎないのであるから諸般の情状を考慮して軽微な判決を言渡すべきが至当であると思う。

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